金魚
あ。

夏祭りですくった金魚は
10年以上経った今でも元気で
水槽の中を気ままに揺らぎ
ときどき思い出したように
視線を合わせてくる

特に感情は見受けられない

小さな家の小さな水中で泳ぐおまえは
大海で生きるくじらよりも不幸なのだろうか

広い世界で生きるものが
広い視野を持っているとは限らなくて
狭い空気を吸うものが
薄い呼吸ばかりだとは思えなくて

水底にびいだまをたくさん沈めた
透けた硝子に光が屈折し
不思議な色合いを作り出しながら
ちらりちらりと背びれをうつす

おまえはきっと
わたしの満ち足りた胸のうちなど
気付いていないだろう
玄関を開ければすぐに見える場所で
抱きしめたくなるような
昨日と何ら変わりのない
日常という喜びを与えてくれる
鮮やかな朱色のその姿

おまえが幸せかどうか
わたしにはわからない
間違いないのは
ひとりを幸せにしているという
ささやかな事実だけ

もしもわたしが海を見に行って
くじらに会うことが出来たら
得意じゃないけど絵を描いて
見せることができれば、と思う

きっとおまえは
興味もなさそうに
水草なんかつつくんだろうね


自由詩 金魚 Copyright あ。 2009-05-16 14:55:18
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