即興掌詩4点
佐々宝砂

お昼までの酔い
午後に恐竜が現れてもわたしはしらない
みみずのしっぽは空をむく
定家葛はひたすらのびる
墓にしがみついていたわたしの腕は朽ちた
あなたは植物みたいに芽を吹き出して
わたしが伸ばした腕をわらう
定家葛をわらう
ゾンビのようにあやつられているのかしら、あなたは
もとのあなたとはまるでちがう
不気味にあかるいはれやかな笑みを頬にはりつけて
わたしではない乙女ののどにくらいつく
わたしは女衒屋のおかみよろしく乙女の手をとりあなたにあずけて
見上げるそらは今日もばかばかしいほど晴れていて



彼女の砂糖細工みたいな髪
あの髪よりもあなたの声はあまい
ゆらゆら消えてゆく夜の名残
遠ざかる舟のようなこだま
どうか夜を忘れないで
あのこの髪をだきしめてあげて
あのこの心を
はかなく消えるものなのだから
あのこのかみもこころもあのしろくかがやく胸も



からから笑いながら猫は去る
かがやく砂浜に置き忘れたトランペット
おーいと叫びながら波に足をとられている
影がこの世界を覆い尽くすとしても
かがやく砂浜 トランペットの金属光沢
あれは決して消えはしない
さてユートピアはもちろん此の世のものではないけれど
ちょっと旅に出ようか
鉄路でも道路でも空路でもない道をたどり



星が奏でる音楽を知る者は少数
図書館の本の数より人生があるとしても
人生の楽しみを知る者は少数
数百年前の響きが星雲をへだててもどってくる午前
人生の楽しみが反響するあの音を知る者はさらに少数
明け方の空に光っていた火星、金星
あの輝きを知るのはたぶん人類のごくわずか
でも
輝きを知るものは確かにいるのだ


自由詩 即興掌詩4点 Copyright 佐々宝砂 2009-05-16 02:38:32
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