波紋のように広がってゆく
岡部淳太郎
私たちは小さなものであり
小さなものであることの上に
居座っていた
当然のような顔をして指をなめ
ずるがしこい風を読み
来た道を戻っては
前と同じような幼い顔をしてみせた
そうして世界は何度もつくり直され
私たちの呪われた失敗の数々は
微笑とともにいたわられた
私たちは小さなものであり
小さなものであることを
自らに許してきた
まるでそうすることで私たちの中の夜が
やわらげられるかのように
私たちはいっせいに沈黙した
声のない意思とともに沈黙は伝播し
波紋のように広がっていった
その上に足跡をしるしながら
私たちの中のそれぞれの
忘れられた人がやってきた
そして訪れる
静謐な朝
誰も歩かないその路上もまた
くりかえし往来するためにあった
(二〇〇九年五月)