夜へゆく波
木立 悟
名前を持つものから離れ
河口に立ち並ぶ
数億年の牙を見つめる
雨の光 灯の光
また 雨の光
早い時計
地平線
昼の雷
流れつく音
どこか欠けて
焼けるような陰をひらき
貫いてゆく流れを見ている
ほんの数秒ごとに変わる
目からこぼれる熱の軌跡
道がふくれ はじける
入口につながる入口の
音と跡を埋めてゆく
午後の陽の塗り残し
どこにもたどりつけない肌
水とも緑ともつかずにつづく
拙く広い水と緑
蝶が離れ
樹がひとつ消える
夕べの根 光の根
あらゆる場所へ放たれてゆく
曇 緑
祭の終わりとはじまりに
沈んだまま鳴る石の楽団
水の上の火
癒えない昼
雷雲にはまだ
約束がある
石と音の影
月と水草
空がまとう
空の俯瞰図
水が落ち
水紋はからだを覆い
夜へ夜へ
まばたくものへ伝わってゆく