交差点のリリィ
AB(なかほど)

三日月1号線は
全ての痛みを解いてくれる
ここではないどこかへ行ける
らしい
東に向かって走る
それだけで


僕は毎日のように
日常57号線を
行ったり来たりしているのだが
三日月1号線に差し掛かると
よくあの娘を見かけた

彼女は意を決して走り出すのだが
決まっていつも
こおろぎが鳴き出し
それから
道のまん中に崩れてしまう


僕は僕で
いつかは左折しようと
思っていたのだが
崩れた彼女の横を
真直ぐに進むしかなかった



ある日
彼女の姿が見えなかった


月は東に輝き
誰も何も邪魔するものはないので
スーツやビジネスシューズを投げ出し
裸足になって
全速力で走ろう
       と したとき

こおろぎ

     が 

一斉に鳴き出し

   道のまん中に

崩れてしまった


自分の歩いてきた
日常57号線に目をやると
彼女が
まだおぼつかない足取りでやってきて
僕は嬉しくなり
涙でボロボロになってしまい
その横を彼女が通り過ぎた


そして
こおろぎは一晩中鳴き続けた

鳴き続けてくれた




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自由詩 交差点のリリィ Copyright AB(なかほど) 2004-08-29 23:38:27
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