呼びかけて
ふるる

誰か私に呼びかけてください

はりぼての海から
髪ふり乱し人魚が突き破って
来るように突然

きれいなレモンが何万個も
緑の丘を転がってゆくので
丘が動いているように見える
そんなふうにきれいな
黄色の生き物のように生き生き

貧しい人が人をぶつ
飼い猫がびくりとする
小さな人が泣く
黙らせようとして近づく
大きな人の影が
とても
大きく近づくように怖く

雨がまだしたたっている
雲間から
細い細いはしごが光りながら落ち
地上に達し地中へもぐり
地球を貫き
南極の生きものも北極の生きものも
手を繋いでその光のはしごの周りをおどる
輪になるまるくまるく
くるくるのように楽しく

両手を合わせた重い像が
次々に空中に引き上げられてゆきます
側にいた人に何でしょう、あれ
さあ、分かりません
何でしょうね
何でしょう
知らない人、全然知らない人に
家族でも恋人でも友人でも隣人でもない人に
何でしょうね、あれ

さあ、分かりません

のように自然に

ああ外では
さっき干したばかりの洗濯物が
ピンチに食べられてゆく
それはもうわき目もふらず
一心不乱
赤ちゃんのよだれかけを食べ終え
こっちを見ます、ピンチ
彼らは従順であることをやめ
貪欲になることを
つよく決意した
ように強く

誰か
私に呼びかけて下さい
誰もいないのなら
私が呼びかけます
僕が呼びかけます
私たちが呼びかけます
我々が呼びかけます

入れ替わり立ち代り
かわるがわる
変わってゆくのは
星座 座標 座席表

呼びかけるのは簡単
呼びかけないのも簡単

だから誰か




自由詩 呼びかけて Copyright ふるる 2009-05-13 15:22:16
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