波紋のように広がってゆく
小川 葉
何を落としてしまったのだろう
波紋が生まれ
どこまでも広がってゆく
はじめに体があったのか
心なのか
見分ける間もなく
時とともに
それは
波紋のように広がってゆく
体に湛えられた
水面は心
その表面を
はじめ強く
広がるにつれて
弱くなっていく
しかしたしかに
それは
その湖畔で
居眠りから目覚めると
また遠い沖で
あたらしい波紋が生まれている
ほんとうに
いったい何を
落としてしまったというのだろう
わたしは夕食の仕度にとりかかる
貸しボートが
次々と帰ってくる
もうじき日も暮れる
真っ赤な太陽が
湖に落ちていく