美しいもの
八月のさかな
木々、たいよう、風、ねこ、ひとみの色と涙のあと
クローバー、すずめ、子供たちの無防備なからだ
誠実、不誠実、夕もやに消えたため息の影
妊婦のおなかと、マニキュアのはがれた爪
海、砂、こもれび、タピオカ、腰をおろしたしめった芝生
彼の二の腕、おなか、まつげ、触れようとするわたしの細い指
くも、バイク、煙草のけむり
鏡にうつったわたしの髪の毛とまぶた
後悔、後悔、自責、彼の手、ゆび、くちびる
ひまわり、生クリーム、レタス、コカ・コーラ
彼がわたしに吐いた嘘、ずるさを優しく見せようとする残酷さ
わがまま、嫉妬、妥協、キス、ハグ、セックス、耳、ゆび、ゆび
ぬくもり、冷たさ、賢さ、弱さ
ほんとうは捨てたくて仕方ないこんなちっぽけなプライド
やるせない、どこへぶつければいいのかわからない、
この、悲しみ
世界はこんなにも美しいもので満ちていて
あらゆる美しいものがわたし目がけて敵意をあらわにする
わたしはひとり、いつもひとり
わたしの世界のまんなかで、その幸福に咽ぶ
どうしてみんな、苦しくないの
どうして平気な顔して、立っていられるの
泣いていたい笑っていたい悲しみをいつもそばにおいて
誰よりもしたしいともだちでいたい
わたしは美しいものが悲しいことを知っているのに
わたしは悲しみが幸福であることを知っているのに