陽炎の記憶
あ。
しなびたような風にはたはたと
力なく揺れている黄色い旗
近くの小学校からだろう
校内アナウンスが外に漏れ聞こえる
時折キンとした音が混じりながら
光化学スモッグ注意報が発令されました
日陰を通って下校してください
神社の鳥居をくぐり
樹木が作り出す大きな影の下を歩く
8ミリフィルムの映画みたいに
どこか懐かしい映像が広がる
古い押入れの奥に似た香りを吸い込み
たくさんの生命の記憶を感じようとしてみる
正確に感じ取れたかどうかはわからない
もしかしたら何も変わっていないのかもしれない
それでも意味がないとは思えなくて
通り抜けてしまえば
そんな懐古的な景色は消えうせ
あっという間に
ぎらぎらとした色彩の現実に戻ってしまう
小学校から出てきた子ども達が
日陰を選んで下校している
アカやクロやキイロやミドリ
色とりどりのランドセルが小さく踊り
鮮やかなものを持たないわたしは
濃灰色の影を溶け込ませるしかなくて
ふと日向に目をやれば
アスファルトから立ち上る陽炎が
見慣れた風景を歪ませていた
本当はおまえも
鮮やかさに焦がれているだろうに