「 猫ノ薬 」
服部 剛
誰もがきっと探してる
心の穴を埋める
たった一粒の薬を
誰もがきっと求めてる
この世の果ての薬局にいる
あの不思議な薬剤師を
群衆に紛れた君が
ビル風に飛ばされそうな心を
(コートの内から漏れそうな子猫の鳴声を)
抱き締めながら
傾いた姿勢で歩いているのを
時折僕は
街の何処かで思い出す
(街中の隅々から無数に漏れる子猫の鳴声を)
僕はあの不思議な薬剤師ではないけれど
遥かな昔、一度だけ
遠い旅先の砂丘にぽつんと建つ
古びた小屋の薬局に行ったことがある
碧い眼をした薬剤師は
僕の来るのを
ずっと待っていたかのように
黙って瓶を、手渡した。
(「猫ノ薬」と
( 瓶のラベルに描かれた
( 碧い眼の黒猫が
( 口を開いて、鳴いていた
僕は棚の引き出しの奥に
ずっとしまっていた
薬の瓶の蓋を開け
その中の一粒を
箱に入れて
今日、君に贈ろう。
その透き通った
一粒の薬を
飲む時
君は自らを充たしてゆく
これから語り始める、君自身の台詞。
これから演じる、君自身の役。
暗がりの、照明灯に照らされて
日々の舞台に凛と立つ
詩人は孤高の唄を、呟くだろう