すれちがうところに立っている
北乃ゆき



例えば雨宿りに入った映画館が
60年代のアメリカ映画をリバイバル上映している
キャラメル・ポップコーンを頬張りながら
フェイ・ダナウェイと向かい合って
ドラッグの効いた脳みそのような
ハイでブルーなカクテルを欲しがる

例えばうっかり紛れ込んだ寂れたバーの片隅で
場違いな賛美歌が流れてる
薄いウイスキーのグラスを片手に
白髪交じりのママと
たいしておかしくもないのに
ひたすら大声で笑う

例えば時速180キロのインテグラの中で
フロントガラスに映る曇り模様が
脳髄にインプットされる
冷気によるくもりから
ざらめのような汚れまですべて記憶する

例えば昼の12時に噴水の前でなおみにナンパされる
営業車を放り投げて
そのままSEXする
安ホテルの一室で
ただSEXする

例えばアルコールとドラッグのちゃんぽんで
久しぶりの平穏を迎えた明け方
家路にある消えかけた電柱の下で
男とすれちがう
電柱から離れたらそれっきり
すれちがうところに立っている




自由詩 すれちがうところに立っている Copyright 北乃ゆき 2004-08-29 16:58:43
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