降り来る言葉 XLII
木立 悟






ひかりたからか
からか からか
穂の息ひそめ
言の火ふらす


窓のふくらみ
煉瓦の道
こだまする影
屋根に立つ影


風のなか揺るがぬ星や星
足の指がつかむ音
春になれず冬を去れず
いつまでも地を聴きつづける空


うたうたうもの
うたえるもの
うたを得るもの
ひとりあふれて


何にも触れず
音は泡立つ
迷い道は二十七とせ
すぐにすぐに通りすぎる


午後の緑
遠く遠く吼えるもの
口つぐむものの分身
あるいは双子 あるいはたましい


言葉にならない音は言葉
言葉になれないほどに言葉
光は言葉 炎は言葉
波は言葉 言葉は言葉


渦まくものに到かない
それでも生きて それでも生きる
おまえがおまえでなくなる道は
おまえが思うほど哀しくはない


水に触れずに波紋となるもの
降りそそぐ舞
切り絵の影の
切りとり忘れた亀裂のかたち


みな笑っているのに笑っていない
目の前で笑っているのに笑っていない
こんなにもこんなにも楽しいことを
話したくて話したくて話しているのに


降伏する人々の
背中から撃っている
穴の数は
掘っても掘っても足りない


どっちつかずの狂おしさに
たましいを喰われている
身をふせるように くずおれるように
水の音を描きつづけている


山は剥がれ
曇になり
においは長く降りつづき
水を流れを赤くしている


響き 響き
雨の館内
誰も写しとらないものにかぎって
署名はかがやかしく記されている


雨は去り
硝子や窓の心だけが流れる
話しかけてもらえぬ傘と
同じ数だけ流れ流れる


砂の斜面を駆けおりる影
かつて水があふれていた土地
いのちはいのちのまぼろしとともに
常に常にまたたいている


どこにもつながらない海に
火の羽が落ちてくる
片目をつまびくものに応えて
火は火の上に降りつづく






























自由詩 降り来る言葉 XLII Copyright 木立 悟 2009-05-09 02:30:42
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