「雨から延びる曲線」
プル式

すべてはこのバスの中で完結している
ふとそんな言葉が頭を横切る
雨はもうじきあがるだろう
そうして所在無さげに
手すりの傘だけが残るのだろう

老人は窓と小説を交互に眺める
後ろのどこかで、ああ、と子供が泣いた
雲間に青い太陽が見えた
信号待ちでエンジンが切れた
もう一度、ああ、と泣いた
アナウンスが入る
一斉に赤い目が光る
エンジンが動く

角を曲がると駅の入口になる
静かに曲がり終えたバスはそのまま
ロータリーを回りながら居場所を探す
そうして軟らかに停止する
老人はいつの間にか小説を仕舞っている
子供は泣かない
雨はまだ微かに降っている
青い太陽も微かに覗いている

雨はもうじきあがるだろう
バスを降りて改札口へ向かうなか
そう思いながらふと手をやると
剃り忘れた髭にふれた。


自由詩 「雨から延びる曲線」 Copyright プル式 2009-05-08 11:39:06
notebook Home 戻る