「雨から延びる曲線」
プル式
すべてはこのバスの中で完結している
ふとそんな言葉が頭を横切る
雨はもうじきあがるだろう
そうして所在無さげに
手すりの傘だけが残るのだろう
老人は窓と小説を交互に眺める
後ろのどこかで、ああ、と子供が泣いた
雲間に青い太陽が見えた
信号待ちでエンジンが切れた
もう一度、ああ、と泣いた
アナウンスが入る
一斉に赤い目が光る
エンジンが動く
角を曲がると駅の入口になる
静かに曲がり終えたバスはそのまま
ロータリーを回りながら居場所を探す
そうして軟らかに停止する
老人はいつの間にか小説を仕舞っている
子供は泣かない
雨はまだ微かに降っている
青い太陽も微かに覗いている
雨はもうじきあがるだろう
バスを降りて改札口へ向かうなか
そう思いながらふと手をやると
剃り忘れた髭にふれた。