ソレイユ
夏嶋 真子
太陽という名を持つその花は
光の輪郭を持っていて
「笑って」
と、ほほえみかけてくるのです
大切なものを失って
すべてを噛み殺して
悲しみよりも深くたたずむその人の
かすかな ほほえみに
光の輪郭が咲いたのです
太陽という名を持つその花は
光の輪郭を持っているけれど
中心にいくにしたがって
焼け焦げていく渦
最初の/最後の一点は
漆黒の闇でできているのです
おさえきれない愛しさ
はかりしれない苦しみ
やがて感情を
麻痺させてゆく虚しさ
何もかもが烈火の中で
混ざりあった色/黒点を持つ花は
そのことを知っていてなお
「笑って」
と、どこまでもやさしく
ほほえみかけてくるのです
「誰にでも均等に向ける
機械仕掛けの笑顔で大丈夫
自分を守るための
かよわい嘘ばかりの笑顔で大丈夫
真っ暗闇の中で
明かりを求めてさまよったりせずに
どうか笑って
あなた自身が光のひとひらなのだから
笑い方を忘れてしまっていても
こわばった筋肉を動かして
口角を太陽の方向に引きあげて
それだけでいいから
光の刃は強すぎて
空虚な心さえも
干上がってしまいそうに感じても
いつか本当に笑うために
どうか 今 笑って 」
太陽という名を持つ花は
光の輪郭をもっているから
真上をあおいでは咲かないのです
同じ背丈で向き合って/まっすぐすぎる視線をそらしてはくれず
笑いかけてくるのです
あの太陽に誰もが射抜かれている
だけどどんな笑顔も
向日葵の花びらで できているから
ぎこちなくキシキシとほほえむたびに
ソレイユはくちづけをくれるでしょう
いつか
自嘲するひとりきりのベットから
起き上がって
カーテンを開けるとき
日なたの味のする舌が差し込んで
そのくすぐったさに
あなたはきっと笑うのです