蜜柑箱
あおば

                090506


蜜柑箱の中に詰まった
蜜柑を食べ尽くした
60人が
つぎつぎと坐ったので
潰れてしまい
バラバラにされて
燃やされた
蜜柑箱の中に刻まれた青春像は
ぺちゃんこになってから
やっと息を吹き返す
人の姿を得て
朝の山の手線に乗車する

蜜柑箱の底板も
骨も残らずに
燃えて
地球に帰ったのだが
タバコの煙を吸っている
60人は気がつかない
省エネカーに乗って
ETCカードを耳に
挟み
高速道をめざす

煙の速い流れに
60人の男たちが
60人の女たちが
それぞれの欲と
無欲と
気色ばんだ意欲と
気落ちした後悔と
乱れた心と
道行きを計画した
錯覚の産んだ思考と
愉快な懈怠が
どこまでも着いてくる

燃えて
灰も残らずに
消えても
どこかに
堆積しているはずだと
そんなことを言いながら
道を歩くのは
なまけ者だけだと
ETCカードが
しゃべり出すような
車たちの吐く息で
狭い道も広くなるような
不愉快な錯覚が
蜜柑箱を頑丈にして
道の真ん中に置く


自由詩 蜜柑箱 Copyright あおば 2009-05-06 10:18:34
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