疑り深かった僕が、骨だけでもって恐竜を信じた理由
ひとなつ

「アーモンドチョコだ」

バスの中で友は言った
さっきから僕たちの後ろの席から聞こえている、ごろごろ・・
という音が何なのか
そのことを聞いたからだ

後ろを覗くと確かに
アーモンドチョコのせいだと分かった

もっといえばアーモンドチョコのハコを開けたり閉めたりする彼女のせいであった
彼女がハコをスライドすると
チョコがわんぱくなペットショップのように
いちもくさんに転がって
ハコから飛び出しそうになっているではないか
それをなんどもやるので
彼女のペットショップはみんな毛が抜けて
つるつるのピーナツ犬になってしまわないだろうか
と心配していると

無言でそれをみていた友が
彼女の隣へ行き
ハコをとりあげた

彼はおなじ事をやろうとしたが
あまりに乱暴だったため
ハコはガクン、ガクンとなったあと
何かにひっかかったような小さい鳴き声をあげて
とうとう壊れてしまった
無言で鼻を鳴らした彼は何も思ってないように見えたが

がばがばと、ゆるくなったハコの中で
ごろ、ごろ・・と、こもった音は彼に
「へたくそ、君はなんでそうやって乱暴にしかできないんだ」
といっているように聞こえた

ハコが壊れてしまったことがわかると
彼は突然思いついたように
チョコを1コとりだし、
彼女の口に押し込んだ
つづけて二2コ、3コ、4コと入れていったが
食欲がないのか
口を動かそうとしない

今にも、はき出してしまうのではないかと思い
見るに見かねた僕は咄嗟に前にむき直った
窓の外を見て気をまぎらわそうとした・・
外は相変わらず雨だなァ、と
しかしまあ、そうしている間に
後ろからポキッ、ポキッ、という軽やかな音がしてきて
僕はようやく安心したのだった

雨が大きい粒になって、それか
チョコが雨になって降ってきたら
こんな音がするのかもしれない
と思った



ガガガガガガガガガガ
バスが工事現場の横を通り過ぎたときは
ポキッ、ポキッ、というピーナッツの音が聞こえなくなってしまった
僕はいつの間にか、この音が心地よくなってしまっていたのだ

しかし何より
僕は道路の工事を見て
こんな雨なのに頑張っているのだなァ
と感心する
頑張る彼らに救いの手があってもいいのに

きっと明日になったら晴れた空のもと
穴掘りの作業が終わって
電線をとおす作業が終わって・・

そして穴を埋める日になったら
そうだ
もう一回、こうやって
雨が降ればいい

そうすれば工事現場の人はきっと感激するのだ
アーモンドチョコの雨がコンクリートよりしっくりきまってしまって
なめらかに、なだらかに穴を埋めてゆくのを眺めて

「どうもありがとう、君のおかげです」
そうやって工事現場の人たちは、アーモンドチョコの雨を降らせた神様みたいな彼女に
お礼を言うのであった

しかし彼女は
やはり何も言わなかった
頬に溜めたアーモンドチョコを、ポキッ、、ポキッ、、と噛み砕きながら
無表情で棒立ちのまま雨に濡れていた。

僕はそんな彼女を好きになってしまっていた

ああ
地層という哀しきコンクリートに埋められた恐竜たち
君たちは今まで以上に哀しい目をしている・・
君たちの時代にもし彼女がいたら
どんなに幸せだったろうに・・



僕が恐竜を信じていなかった頃の話







自由詩 疑り深かった僕が、骨だけでもって恐竜を信じた理由 Copyright ひとなつ 2009-05-05 16:11:50
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