鉄棒に両腕と
オイタル

鉄棒に細い両腕とあごを重ねて
校庭の向こう岸に
風が波になって集まるのを
見ていた

帰り道の友達は
黒い袖をはためかせ
くるくると帽子を回しながら
林の陰へ消えていった

頼りない僕の胸に
少しずつ流れ込むぬるい水溜りをはねて
色とりどりの長ぐつが
次々と土手を滑り降りていく

それは
繰り返せない始まりの風景
後ろからしか見えない
きれぎれの夢

肩を落とした
古いひまわりの上を
ミツバチが音もなく回り
少女は陽射しを分けて
はやい忘れの海へと
足を踏み入れていく
ゆっくりと
紛れもなく

やがて
朝のドアが小さくきしむ
さびしいベルがのどを鳴らす
明け方の闇をくぐって水を一杯
もう一杯
かくて
取り返しのつかない希望をまたも
取り戻そうとする今日がはじまる


自由詩 鉄棒に両腕と Copyright オイタル 2009-05-05 09:20:03
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