「 祖母の部屋 」
服部 剛
仕事から帰ると
三ヶ月前に世を去った祖母の
妹のI叔母さんが
ソファーに腰掛け
親父とお茶を飲んでいた
母ちゃんが
「お茶をもう一杯・・・」
と言うと
I叔母さんは
「いえ、もうそろそろ・・・」
と言い
ゆっくりと腰を上げた
親父の運転する車の
助手席に腰を下ろした
I叔母さんを
母ちゃんと僕で並び
お辞儀をして
見送る
今日は疲れていたので
仕事の後
喫茶店で仮眠をとってから
帰って来たが
少しの間でも
会えて
よかった
車の中から手を振る
I叔母さんの瞳の内に
孫の帰りを待っていた
祖母がいるようで
I叔母さんから見た
僕の瞳の内に
妹が来るのを待っていた
祖母がいるようで
車の後ろ姿が
角を曲がるのを
見送った後
家に戻るとやはり
祖母の部屋は
がらんと
誰もいなかった