止まり木のひと
恋月 ぴの

私の小鳥が死んだ
何度か獣医さんに診てもらったりしたけど
これが胸騒ぎなのだろうか
部屋の錠を開けるのももどかしく逆光に沈む鳥かごへ駆け寄れば
初夏の陽射しのなかで彼は小さな亡骸と化していた

白い鳥かごと私たちの部屋
彼にとっての世界とはそれが総てだった

ふたりの子供代わりにでも思ったのだろうか
齧目の小動物でも良かったけど
共稼ぎしてるから手のかかりそうなペットは飼いきれないだろうし
犬猫とかは飼えないはずのマンション暮らしだった

他の雛たちと比べるとか弱そうにみえた
目と目があった気がした
赤い糸で結ばれている気がした
買う気満々でペットショップを訪れたことのある人なら覚えるだろう
よくありがちな錯覚に囚われてしまったけど

あのひと独特の拘りなのだろうか
振り向けばお姫様の物語りにでも出てきそうな白い鳥かごをスーツ姿で提げていて

手乗りになっているからと勧められるまでもなく
彼は私たち家族の一員となっていた

機嫌良く囀っているときには意外なほど重かった彼の身体も
小さな紙製の箱に納まってみれば
羽ばたいてしまった魂の重さ以上に軽く感じてしまい
めそめそといつまでも涙を流す私の姿に戸惑いながらも咳払いを繰返す優しさに背中を押された

こんなところに
誰しもがそう思わざるを得ない瀟洒な建物の一角にペット斎場はあった
最後のお別れと掌を合わす眼差しに映える色鮮やかな青い羽根
何かの気まぐれだったからと見開くような気配を感じ

私たちの部屋に連れ戻したくなったけど

そそくさと荼毘にふされた亡骸
小鳥にしては大きく思えた頭蓋骨の穢れない白さと
色鮮やかな青い羽根の行方が気になった

またふたりだけとなってしまった心細さからなのか
筋肉質な二の腕に今更ながらの頼もしさを覚え
黒いベール越しに垣間見た初夏らしい空の彼方へ飛び去って行く



聞き覚えある小鳥の囀りを聴いた





自由詩 止まり木のひと Copyright 恋月 ぴの 2009-05-04 21:45:41
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