いきなさい

いきなさい

そう言われて
ここまで来たと言った

うすぼんやりとした目の奥で
覚えていた景色はたぶん
泣いていたのだと思う


赦されないと解っていたから
一度も振り返らなかったけれど

ひとつふたつと数えられた
月と日の数が

もうとっくにあの頃の自分を追い越してしまって

今度は自分が言う番だねと笑う


もういっても大丈夫でしょう?


問われる度に考えてしまう
意味論に囚われた
新世代の曖昧な返事

まだいかないで

どこにいけばいいのか解らないから



ずいぶんと前の日曜日から
記憶は進んだり戻ったり
毎日いってしまう人たちの
朝と夕方のニュースに

果たせなかった母親のように毎日泣く

ナサチネン
ウキユ
ワタイグリサ

どこかで聴いた歌のフレーズは悲しい



いきなさい

そう言われて走るしかなかったと言った

あとからね、という言葉は
さようなら、と同じ意味だった

気づいたのは

フハツダンという言葉の響きが
それそのままを印象づけると知った
そんな日の午後よりも


たぶん、ずっと前からだった



いきなさい

そう言われたから走りつづけたと言った


のどもとまでこみ上げた涙をこらえて
どうやって呼吸していたのか解らないって

裸だったけど恥ずかしくなかったって

みんなそうやって何か置いていったからって


時代も空間も関係なく
静まりかえった教室は重い空気に澄んでいった


振り返ったら焼け野原

隣にいたのは誰だったのかな



再生なんて、ね
もう二度と同じものにはなれないのに


蝶々が飛んでいたから
話しかける

訝しがる新世代は遠くで見ている


想い歌にはちゃんと書いてある

死んだら蝶になって戻ってくると




冷たくて新しい石に花束を添える
熱くて弱い意思には知恵を与える

後ろの正面に立てるのなら
むしろ優しい顔でいなさいと笑う


100年経てば人は忘れるんだってさ

まだそんなに経ってないのに
壊れたものも直せないのに





夏がきたら思い出すことは
蒸し暑いにおい

あの日からずっと繰り返す

悪い夢





いきなさいと言われた場所に

ちゃんと進むことができてるかな


いきなさいと言われた意味を

ちゃんと受け止められているかな




いきなさい



助けられなかった過去を背負って
終らない昨日を明日に持ち越してでも



いきなさい


つながれたものを覚えていて



いきなさい


たくさんのひとたちの言葉を受けとって




いつか西の果てでまた会えるまで







行きなさい

行きなさい




生きなさい











自由詩 いきなさい Copyright  2009-05-03 23:11:45
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