足は大地を踏む
ふるる

昔 大きな戦いがあり
そのせいで手首の骨が曲がったままついている
と祖父が言う
痛かった?
そりゃ痛いよ
(おじいちゃん人を殺したの?)
とは聞けない
昔 大きな戦いがあり
みな人を殺しに行った
自分を含めて人を
後に残す家族や大切な人のために
殺すほう殺されるほう
後に残されるほう
誰がつらいかなんて分からない
冬になると
祖父は曲がった手首を無意識にさする
私は庭に出て
夕食の残りを犬にやる
祖父も一緒に出てきて庭の梅を見上げる
梅はもう蕾
もう少しすれば
鐘の音のように涼やかな香りで咲く
花を空を
見上げるとき
足は大地を踏む
昔 沢山の爆弾が恐ろしい雨のように降ったという
この辺一帯の夜空は紅に染まり
一夜にしてほとんどの家が失われたという
祖父の親しかった人 見知らぬ人が
眠っているかもしれないのだが
足は大地を踏み続けなければならない
昔 大きな戦いがあり
みな人を殺しに行った
自分を含めて人を
そんなことは知らずに
犬は美味しそうにごはんを食べる
祖父は毎年正月の三が日まで
食べ物を口にしない
誰がつらいか
なんて
なんてばかな想像
なんてばかな質問
祖父は曲がった手首を無意識にさする
足は大地を踏む


自由詩 足は大地を踏む Copyright ふるる 2009-05-02 16:51:10
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