帰省
佐々木妖精

雨音に紛れ、扉が僅かに軋んだように思えた。
母親がこまめに掃除しているのだろう。
微かな埃と日向の匂いがする。
雨粒。雲を縫うこどもたちの声。坂道を駆ける軽い足音が風に乗り、ガラス戸を揺らす。
ベランダへ身を乗り出し音源を辿るにも、すでに寄りかかる柵はなく、手を伸ばす枝端もない。
様変わりした景色の中で律儀にも、雨戸だけが変わらずここにある。
いつの間にか点ることのなくなった室内灯や、知らぬ間に区切られた駐車場を、ぼんやり共有する。

腰かけたベッドから柔軟剤の香りが漂い、揺り起こされた蛍光灯が小刻みに瞬きを始める。
静止したブラウン管に光の線が数本、瞼の向こうで映えたように思えた。
古びたゲーム機。数本のVHS。本棚へ統一性なく立てかけられた書物。
一冊の辞書を手に取るも、余白を彩る書き込みが、もはや何を意味しているのか分からない。
ただぽつぽつ。日に焼けたページと空模様を読む。
黒ずんだ雲はもう、ありふれた夜になろうとしている。


自由詩 帰省 Copyright 佐々木妖精 2009-04-27 07:23:32
notebook Home