太陽と月と詩
たちばなまこと

太陽のまばたきのたび
土の上の世界は
うすべにからわかくさいろに
わかくさいろから確かなみどりへ
塗り替えられて
月のためいきのたび
つゆはふくれ
つゆを舐め
くさばなは伸びをして
みなみの風にそよゆれて
ああ春だなあって
ひとびとのあしどりはかすかにゆるめられ
ひとびとはそれぞれのあのひとに
焦がれている

春は子どもに似ていて
やわらかくあたたかく
あたらしいにおいがして
思わず手を伸ばしふれたくなる
そういう
魅力にあふれている
子どもを持つまで知らなかった
詩想

わかくさいろの子どもが泣く
桜ヶ丘の建物群と
鉄橋を揺らす京王線が
よく見える
対岸の土手に自転車とめて
やわらかな若芽がしおれぬように
やさしくやわらかくふれる
ママいやなの
電車がいいの
涙をこぼす子ども
わたしは電車に塗り替えられたい
わたしは黙ったまま電車になって
きみのゆきたいところまで
絵本のおばけみたいに
自分で枕木を打ちながら
ただ走って
京急線がいいと言えばあかに
半蔵門線がいいと言えばむらさきに
小田急線がいいと言えばあおに
千代田線がいいと言えばみどりに
総武線がいいと言えばきいろに
中央線がいいと言えばだいだいに
塗り替えられながら
きみがまんぞくして明日へ眠るまで
走ってもいいんだよ

春が翳る
ひんやりと

いやだいやだと泣く子ども
わたしはいそがしくさみしくて
わかくさいろを抱きしめる
いやだいやだの理由をさぐる
ほんとうはやさしくしたいの
ほんとうはわたしもただの
太陽と月でいたいの
まばたきとためいきだけで
だれかが詩(うた)えるそんざいに
まばたきとためいきだけで
なにかを詩(うた)えるそんざいに



自由詩 太陽と月と詩 Copyright たちばなまこと 2009-04-25 19:22:34
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