オカリナの吹く森
乱太郎

   どこから
   ともなく
   流れてくる
    なつかしい調べ

さえずる小鳥も
枝の上で目を閉じ
一匹のシマリスは
頬を膨らまして
クルミをそっと地面に置く

  (・・・・・・
    誰もいないはずなのに
   人の影さえ見当たらないのに
   ・・・・・・)

透けた肌の小さな川も
控えめに渡ろうと
ときおり
何かしら?と
アユが飛び跳ねて
水面が打ち鳴らしている

生い茂った樹海
陽射しが白い幕となって垂れ下がり
老いて崩れたマツの大木には
濃緑の苔が新しい命を生やしていく

  (・・・・・
   誰が吹いているのだろう
   まるで少年のような
   ・・・・・)

鹿の群れでは
母鹿が小鹿のそばに近寄り
首筋を舐める
その周りで
華麗に踊る黒アゲハ蝶が
どこで休もうかしら?と
黄色い菜の花に尋ねている

ミツバチが次から次へと蜜を運び
その下で
蟻たちがせっせと食べ物を運んでいる

    人には聞こえない
    オカリナの音色は
    いつまでも森を包み込む


自由詩 オカリナの吹く森 Copyright 乱太郎 2009-04-24 16:34:47
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