煙草すい
北星三天






ねぇ

あんた
まさか煙草なんか吸ってないよね

まだ若かった僕は黙り込んだ

あたしと煙草
どっちを選ぶの?




まだ若かった僕は
次の日
彼女と別れた




街を歩いていると
警官に呼び止められた

怪しい風体の僕は
そんなことには慣れっこだ


散々質問された挙げ句
解放された


去り際に警官は
ちょっとあんた
最後に聞くけど
まさか煙草吸ってないよね?


僕は
まさかみたいな顔して
足早にその場を去った






見ちゃ駄目!
娘の目を手で覆い
母親が手を引き逃げるように去った

その視線の先に
いた男は
右手を丸くし何かを隠すように立っていた


煙草吸いだ!

僕は直感的にわかった

彼の右手あたりに
かすかに紫煙が漂っていた





今朝の新聞で

銀行強盗射殺の記事があった

犯人は人質を盾に
金を要求

要求をのまなければ
煙草を吸うぞと脅したらしい





今、国連で国際的に問題になっているのは、一部の途上国で、極刑として罪人に煙草を吸わせる国があるということ
その刑を言い渡された罪人は一様に死刑への減刑を嘆願してるらしい

人道的見地から
欧米諸国を中心に強い反発の色が強く

経済制裁も辞さないとする強硬な国もあるらしい



僕は
いつも通り
公園の片隅のベンチで新聞を広げ



設置された錆びた灰皿の前で煙草を吸いながら


公園前の通りを挟んで
向かい側にある自販機を
ぼおっと眺めながら思った








だったら 売るなよ!




へそ曲がりな
煙草吸いの紫煙はゆっくりと空へ登った





自由詩 煙草すい Copyright 北星三天 2009-04-22 20:49:08
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