ぷかり
恋月 ぴの

糊の効いた藍染めをくぐり抜けると
石鹸の香りがいらっしゃいませと迎えてくれる

散歩の途中でみつけたお風呂屋さん
モクレンの香りに誘われて迷い込んだ小路
朝夕通っている駅前通りとはさほど離れていないのに
昭和の雰囲気残る家並みに松の湯さんはあった

おんな湯の下足入れに赤いサンダルあずけ
番台の女将さん、わたしの顔覚えてくれたのか
さり気なく時節の挨拶交わしたりして

誰が見てなくとも「らしさ」は大切にしたいよね
脱いだ下着類を揃えて畳んだ上着に忍ばせて
湯殿の引き戸をがらりと開けてみれば

からんこんと賑やかな音鳴り響き

平日の夕暮れ前なのにそれなりのカランからお湯が弾ける

ケロリンの洗いおけ懐かしくて
今でも使ってるなんて思わなかったよ
石鹸泡立てたタオルでひと汗さらっと流したら
ちょっと熱めの湯船に浸かる

胸の豊かなおんなのひとだったら
お湯のなかでたっぷんとおっぱいらしさ揺れて
大津波のようなお湯が洗い場にまで押し寄せるのだろうけど
貧乳なわたしじゃぁ小波さえ起こりえない

それでも熱めのお湯に慣れてくる頃には
手足伸ばしてくつろぎ気分で
小さな子供だったら平泳ぎしちゃうんだけどなぁ

わたしんちのお風呂と違い銭湯ってさ不思議だよね
お姉さんだってお婆ちゃんだってみんなすっぽんぽんで
恥ずかしげに前を隠したり
堂々と大また歩きは隠さなかったり
やたら胸のおおきなひと
ぷっくりお腹に赤ちゃんのいるひと

ひとの誰もが生きていて
楽しいときも
苦しいときも
それぞれがそれぞれの生き方をしているんだものね

そんな当たりまえのこと考えてたから
湯あたりしたのかな
目の前がくらくらするのに耐えながら湯船を後にした

やっぱし脱衣所はひんやり涼しくて
腰に手を当ててのコーヒー牛乳って危なすぎるから

時間ですよ

って松の湯だか梅の湯だかの屋根にのぼり
ギターに合わせ下手くそな歌を歌っていただなんて
わたしほんとに知らないからね




自由詩 ぷかり Copyright 恋月 ぴの 2009-04-20 22:23:42縦
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