波打ち際で
服部 剛
久しい友との再会にグラスを重ね
ふくれあがる泡のビールを
渇いたのどに流し込み
赤らんだ 頬のほてりも醒める頃には
だんだん 寒くなってしまう
友と別れ
夜の浜辺に呼ばれ
造りかけの人気ない海の家を通り抜け
波打ち際で縮こまって 膝を抱える
この肌を 風に震わす寂しさよ
波音に溶け入れ
いつも共にいれば
二つ三つと笑顔は増えた
時にはぶつかりあい
泥まみれの背中合わせだった
人を愛せばいつも
この胸に 甘く 苦い 潮水のうねりでも・・・
「久々に会えてよかった」と
寄せ返す闇の波間に
皆の顔をしゃぼんの幻にして
夜の海に浮かべてみる
ふわり ふわり
高く 笑う 朧月の方へ
江ノ島の 灯台放つ 光線が
霧を破って 友の面影を淡く照らすよ
さっき改札で見送った友は
日常とのピントがずれた
浮かぬかげろうの背中で・・・
友よ
この世には いろんな風があるものさ
この俺も
どうしようもなく夜空を仰ぎたくて
リュックを枕に寝転んだら
遥か 遠くの 台風から
海面を這ってきては
風に舞い上がる砂を顔に浴び
じっと 目を閉じるありさまさ
ここに 独りで
そんな呟きを
互いに口にする年齢でもないが
改札で見送った君の後姿には
ビールの缶を片手に
乾杯の合図を送るんだ
ふと 凪いだ 夜風は
醒めた頬についた砂の汚れを
拭う手のひら
そろそろ
歩いてきた浜辺の足跡を辿り
家に帰ろう