朝刊
窪ワタル

朝靄の中
頼りない影を引いて
配達夫は世界の悲報を配るのに忙しい
昨日のキスは二人しか知らないこと

ベットに傾けようとしたとき
「今夜はいや。」と云った君の
声の湿度は僕の鼓膜しか知らないこと

君の家からの帰り道の
月あかりがやさしかったことは
僕と 僕の影に塗られた歩道しか知らないこと

世界の悲報を知ることなど
そんな些細なことなのに
配達夫はただ忙しくポストを叩いて行く

僕は 僕の悲報を見たときの君の顔を
想像さえできないまま
切り取られた昨日に
視線だけの細い挨拶をする

おはよう






自由詩 朝刊 Copyright 窪ワタル 2004-08-27 05:15:44
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