『こうもり』
東雲 李葉

町中の人に嫌われた気がする。たかがゴミ出しの日を間違えただけなのに
けれどこんなにも気になってしまうのは父親がA型だからだ
私はO型だから混じって神経質で大雑把なんです。だから私の所為じゃないんです
そんな言い訳誰も聞きたくないだろうに

すれ違う女子高生の集団に笑い者にされてる気がする
若いこととはそんなに偉いことなのだろうか
汚らしいね、いやぁね、と思い付く言葉は古くさい
同じ顔で同じ服を着て同じ声で私を語るな
枯れてしまえアヒルの声、
と陰湿な獣が喚いております

視線は思ったよりも低い位置で蠢いていたようで
目の前の座席に座った女が気味悪がって目を細めた
そんな顔で歩くんじゃないわよ、と甲高い声で怒鳴られている気がして
目的地よりも一駅前で降りてしまった
私が鳥ならくちばしで突いてやれるのに

幼い頃、みんなに配られるはずの菓子を私だけ貰えなかったことがある
すぐさま不平を訴えたら意地汚いと揶揄された
それから不満を漏らすのが恐くなった
私が我慢して収まるならそれで善いではないか。ああ、なんて平和主義
平等なんぞ糞くらえ。この世は強者のものなのだ
暗い子供だった私には普通に生きる権利はなかった

物語の中のこうもりはとてもとてもかわいそう
鳥にも獣にもなれるのに
鳥にも獣にもなれなかった
誰も寄り付かない暗い暗い洞窟で
皆が寝入る夜になるまでじっと明るい昼をやり過ごす
湿った天井にぶら下がり逆さまの世界を眺めている

かわいそうなこうもり


自由詩 『こうもり』 Copyright 東雲 李葉 2009-04-19 17:11:13
notebook Home