『こうもり』
東雲 李葉
町中の人に嫌われた気がする。たかがゴミ出しの日を間違えただけなのに
けれどこんなにも気になってしまうのは父親がA型だからだ
私はO型だから混じって神経質で大雑把なんです。だから私の所為じゃないんです
そんな言い訳誰も聞きたくないだろうに
すれ違う女子高生の集団に笑い者にされてる気がする
若いこととはそんなに偉いことなのだろうか
汚らしいね、いやぁね、と思い付く言葉は古くさい
同じ顔で同じ服を着て同じ声で私を語るな
枯れてしまえアヒルの声、
と陰湿な獣が喚いております
視線は思ったよりも低い位置で蠢いていたようで
目の前の座席に座った女が気味悪がって目を細めた
そんな顔で歩くんじゃないわよ、と甲高い声で怒鳴られている気がして
目的地よりも一駅前で降りてしまった
私が鳥ならくちばしで突いてやれるのに
幼い頃、みんなに配られるはずの菓子を私だけ貰えなかったことがある
すぐさま不平を訴えたら意地汚いと揶揄された
それから不満を漏らすのが恐くなった
私が我慢して収まるならそれで善いではないか。ああ、なんて平和主義
平等なんぞ糞くらえ。この世は強者のものなのだ
暗い子供だった私には普通に生きる権利はなかった
物語の中のこうもりはとてもとてもかわいそう
鳥にも獣にもなれるのに
鳥にも獣にもなれなかった
誰も寄り付かない暗い暗い洞窟で
皆が寝入る夜になるまでじっと明るい昼をやり過ごす
湿った天井にぶら下がり逆さまの世界を眺めている
かわいそうなこうもり