地図夜
望月 ゆき

宵闇、
五線譜の電線 で
輪郭のぼやけた影だけの鳥たちが奏でるのは
誰かの
失くしてしまった、声
あるいは、足音
にも 似て
道しるべにするには あまりにも
不たしかな

風通しのよくなった
右側 をさぐると
そこには
今もなお
世界地図、は広がっていて
黒装束の夜に手をのばすと
在るはずのない、
見えないそれ、に触れてしまう


あなたの頬 に ひまわりの丘
あなたの鼻すじ に ロッキー山脈
あなたの右耳のうしろ に カシオペア座
あなたの口元 に ニュージーランド
あなたの髪 に サンゴ礁のリーフ
あなたのつむじ に ペンギンが
あなたのひざ小僧 に スフィンクス
あなたの足の中指 に セーヌ川
あなたの爪 に 赤いブランコ
あなたの背中 に あの朝の、海
あなたの心 に わたし
あなたの心 には わたし
ではない、誰か
ほかの、誰か


ひととおり
世界を旅しては、還る
くりかえし、
くりかえし、


暗闇で、目が覚める


たしかなこと といえば
地図の上は、いつも
雨が降っていた




自由詩 地図夜 Copyright 望月 ゆき 2004-08-27 02:12:59
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