風薫る
nonya


柔らかな光の筆先で
なぞられた街並は
おぼつかない輪郭から
あどけなくはみ出す
水彩絵具の色合い

目の前を行き交う人々の
心なしか和らいだ眼差しは
古いアルバムの内側で
セピア色に熟していく
記念写真の色合い

ビルとビルの狭間で
優しくたゆんだ
昼下がりの待ち合わせ
少しぐらいだったら
待たされるのも悪くない

腕時計を気にするかわりに
空を見上げる
胸のほつれめから
痛みが溶け出して
雲の速度で遠ざかる

背中を軽く突つかれて
振り返ると
目映い笑顔を掠めて
緩やかに風が薫った




自由詩 風薫る Copyright nonya 2009-04-18 18:14:02
notebook Home 戻る  過去 未来