からたち列車
あ。

おもむくままに、旅に出ようか

規則正しいかたかたとした音は
恐らく鞄に忍ばせた貯金箱
目を閉じればそれは
大きな機関車のタイヤに変わる

太陽はなだらかに線路を作り
どこまで続いているのかわからないけど
走らせて見ようと思った

かたかたと進むと
背よりもずっと大きい生垣
からたちの木が並ぶ
そのつやつやしたとげに見守られ
魅入られながら通過する

ちりちりちり
軽快な鈴の音に振り返ると
少し気の早い子どもが
手に小さなこいのぼりを持ち
こいと一緒に音をおよがせる

小高い丘へと線路は続く
導かれるままに進んでいく
素っ気無い土は不意に緑を生み
どうやらここが終点らしい

さわさわと揺れる葉には見覚えがあった
からたち、だ
誰かが植えたのか
何のために植えたのか
わからないけれど、とにかく
からたちがしげっていた

家はないけど
垣根のように
何かを守るように
全てを守るように

からたち列車から降りる
尖った優しさに触れながら
土のあたたかさに触れながら

きっとはじめて
すやすやと眠った
旅は、ここまでにしよう。


自由詩 からたち列車 Copyright あ。 2009-04-17 20:22:50
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