耳をなくしたきみへ
ゆるこ
わたしの水の中に
あなたの耳だけ寝そべっている
小さな胎児みたいに
ゆらゆらと漂っている
わたしの声が
最後にあなたを満たしたのはいつだったかしら
瞳を瞑りながらわたしを探すあなたの指先が
いまでもとても愛しいの
あなたのこころに触れていたかった
わたしの声に触れて欲しかった
あなたの耳はわたしの中で
ずっと ずっと 漂っては浮き沈みを繰り返す
薄い鼓膜が
あなたのだいすきな鯨の胃の中にあればいい
わたしはそれだけで
涙を流さずにあなたを抱き締められる気がするから
・
あなたにもっと
愛を囁けばよかった
わたしの声を好きと言ってくれた
優しいあなたの耳があるうちに
あなたにもっと
ありがとうといえばよかった
感謝が苦手なわたしの放つ言葉にいちはやくきづいて
あなたとだきしめあってひとつになれたでしょう
・
わたしの波間をぷかぷか漂う
かわいいかわいいあなたの両耳
あなたがわたしをなくしても
わたしはあなたをなくしたくはないの
空を飛ばないで
海に流れないで
わたしのそばにいて
わたしが手話を覚えるから
小さな希望を見捨てないで
わたしの手を握り締めて
あなたの音は
わたしの胸で傷を癒しているだけだから
(抱き締める
/きみのその震えた肩を)
きっと
大丈夫だよって