空虚を越えて
百瀬朝子

青空から真っ白い
雪が落ちてくる
所在なきものたちが
幸福を連れて
地上にやってきた

見えないところで定着
成長する細胞のはじまり
子宮でお遊戯会が催される
喘ぎ声がBGMの夜は深く
眠るのも忘れて戯れようとは

  ひとりぼっちの空虚を越えて
  一瞬の快楽を手に入れる

内側から扉を叩く
生命の炎がゆらぐ
呼吸する
他所よその世界がひずむ
産声高らか
嗚呼、
へその緒が乾いていく

  満たされない自分に
  ひとりぼっちの
  空虚が沁みて痛む胸

まだ見ぬ明日に希望的な夢を描く
死にたくなる前に
この息よ止まれ
生まれ変われるのなら
過去がいい

  ひとりぼっち募る不安に
  空虚が埋め立てられてゆく

まるで、煙で部屋が満ちてく
それは満足だとはいいがたく
区別をつけるのは簡単だが
どっちつかずのわたしがいる

授かった部屋での記憶
思い出す間もなく消失
しがみつく必要のない記憶は
消えたところで支障はないが

わたしはわたしを育んだあの
部屋からとびだした
誰もが通る道をくぐりぬけ
苦悩の果てで光を浴びるため

  わたしは
  ひとりぼっちの空虚を越えて
  一瞬の快楽を手に入れる

生命は、
幸福を連れて
地上にやってきた
ノックしつづけた長い日々にさよならを
この手で、望んでノブを掴めば
いつだって扉は開かれる

甘えてばかりはいられない
ひとりぼっちは終わったから


自由詩 空虚を越えて Copyright 百瀬朝子 2009-04-16 17:59:07
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