ひとつ うつわ
木立 悟






卵の殻が片目に入り
蛾は内から去ろうとしない
眠ることなく
粉に満ちる


雷鳴が
蝙蝠に抜け出る
群れながら群れではない
朝の蒼


誰もついてきてほしくないのだ
いのち止める道のりが
ただつづくばかりなのだから
ひとりを壊し あふれながら


次の冬と次の冬と
次の冬を聴いている
ふたつの粉が向かいあい
粉以外の景がひらくとき


砂が流され
亀裂が現われ
海はひとつの
骨の器の内と知る


生まれる前に終わる息が
片目を空へ触れさせている
通りのはざまを歪めながら
蒼く白く夕暮れは鳴る


粉のはざまに見える声
どれも応えのかたちとなり
見捨てられた荒地から
見たこともない故郷がはじまる


何かを切るたび
冬は回る
片目はまぶしく
浪を呑む


海へそそぐ海を
蛾は見つめる
骨は粉に
粉は骨に応えつづける


















自由詩 ひとつ うつわ Copyright 木立 悟 2009-04-13 18:59:35
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