死の海
木屋 亞万
海へ飛んでゆきたい
青い、ど真ん中、未開の海の底を目指して
太陽の光が届かない底にへばりつき
飢えた獣のように砂を舐め、食らいたい
私はあなたの塩分が欲しい
ありふれた水分ではなくて、
結晶になっているほうがよい
血でも汗でもない、奥底深くにある塩分をおくれ
心臓を死海にする
醤油を一本飲み干して
内側から、いいえ、内側だけ
核だけ私を殺してしまおう
そこにあなたを移植して、
私をあなたのクローンにしてください
大根の葉を甘辛く炒めたフライパンは胡麻油と醤油の香りがした、石油臭いスウェットを着て、あなたはいつも砂を洗い落とせていなかった、ほうれん草を噛むたびに歯と幸福が折れていった、その欠片は砂となって肺にたまり、骨の折れる人生の小さな墓場となっている
私はそこへ飛んでゆきたい
壊したいものがありすぎて
私はもう壊れてしまいそうだ
塩を舐めたら死ぬ体質、だったなら
涙を呑んで死ねたのに
枕にへばりついたまま
呼吸を拒む喉が苦しい