巡礼歌
壮佑


あなたが残して行ったもの

俳句を連ねた小さなノート
表紙がぼろぼろになった聖書
漱石の「虞美人草」と
若山牧水の歌集
壇の上の 薄い写真の中の
やわらかな微笑み

かつてあなたが
夫を見送った夜
持鈴を鳴らしながら歌った歌が
いま再び あなたを見送る
私の耳に聴こえて来る

―あなたに伝えたい言葉があります

呼び掛けても
もう届くことのない春の日に
澄んだ響きの巡礼歌を歌っている

あなたは
いま
何処にいるのですか





(注)巡礼歌=御詠歌






自由詩 巡礼歌 Copyright 壮佑 2009-04-10 21:32:27
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