勝手に持ち出された
サトタロ

わたしが最後にあの人を見たのは
タイのアユタヤでした
髪や髭はのび放題
肌は浅黒くなって
服も泥だらけでした
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら
あの人は象のケツに
VHSのデッキを押し込もうとしているところでした
象は泣いていました
象の穏やかな目から
涙がこぼれていました
あの人は嗚咽しながら
黒いデッキをちからいっぱい
象のケツにあてがっていました
あのデッキ
私の家から勝手に持ち出されました
あの人も象も辛そうでした
こころが辛そうでした
そうあのデッキ
私の家から勝手に持ち出されました
ケーブル類だけ残して
私の家から勝手に持ち出されました


自由詩 勝手に持ち出された Copyright サトタロ 2009-04-09 02:45:36
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