桜花
凪目

つつましやかな紫煙の残り香が
わたくしの肩の辺りをただよって
広いような
また深いような
みずうみの表面へと消え
それはやがて
春と同化していくのでありました

からすの兄弟を乗せた小船が
波紋をつくりあげながら
花のふさの中を
泳いでいきます
黒々としたくちばしが
二度三度 宙を噛むと
夕暮れが
吐き出されていくのがわかりました

桃色にかこまれた時計塔で
たくさんの羽ばたきが散ってゆきます
喧騒をはらんだ空はまだあおく
まっすぐに伸びていく二つの雲が
頭上に浮かんだ乳白の月のとなりを
いま静かに 横ぎっていきました


自由詩 桜花 Copyright 凪目 2009-04-05 19:07:30
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