チャイルドロック
山中 烏流




うつらとする瞼の外で
父が
少し待っていなさい、と
後部座席のドアを
勢い良く閉めて
私は
一人きりになった
車など
運転することはできないから
そこに居る意味など
無い、というのに

母と妹は
仲良く手を繋ぎ
スーパーへと続く階段を
さも、楽しげに降りている
ここからは
そこから発せられる声が
良く聞こえるものだから
何か、悔しさにも似たものを
覚えてしまう


煙草の匂いが染み付いた車内で
父の足音が/ゆっくりと
遠ざかるのを聞く

追いかけようにも
鍵、以外の何かで
閉じ込められているらしく
横にスライドする筈の扉は
一向に開く気配がない


なんだかもやもやするので
とりあえず
ひとしきり泣いた後
ダッシュボードに隠されている
某週刊少年誌を引っ張り出して
読みながら
待っていることにした

しばらくの後
暗くなってきたことに気付き
天井のライトを
ぱちん、と付けて
また
もう何度目か分からない忍者漫画に
視線を落とす



真っ暗になってしまった、というのに

まだ
誰も帰らない



***



いつのことだったか
妹が
私の隣で寝ていたときだろうか

父は私を車外に下ろした後
扉の側面にあるつまみを捻り
いつも通り
勢い良く扉を閉め
何事も無かったかのように
私の手を引く姿を
まるで
昨日のことのように覚えている

(車内から妹の泣き声が聞こえたことには
 気付かないふりを、した)


父曰く
どうやら
あの不思議な仕掛けは
「チャイルドロック」と言うらしい

(さっきのつまみを捻ると
 外から扉を開かない限り
  開かないようになるらしく

あれなら
勝手に出歩くこともないだろう、と
父は
私の頭をくしゃくしゃにして
笑った



***



でも、

助手席に「そんなもの」は
付いていないこと

私、知っていた


知っていたんだ




よ?







自由詩 チャイルドロック Copyright 山中 烏流 2009-04-02 18:28:43
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