野ばらの王国
水島芳野

さわらないでと
胸に茨を抱きかかえたまま
叫んだね。

マゼンタの色の野ばら
きみと、ぼくの

灰に涸らされてゆく喉で
必死に歌っていた僕ら

君は僕に蕾ひとつない
花冠を作って
僕らは僕らだけの王宮で語り明かした

君がお姫様で
僕は王様
何もかも思い通りに
何もかも幸せに

僕らの
理想郷について。

君は慈愛と悲しみに満ちた瞳で
誰も彼もみんな
幸せになってしまえばいいのにと
呟く。

青い鳥ばかり
籠から解き放った

あの優しい夕焼け空
僕を必死に抱きしめていた
さわらないでと
言うだけの僕と

憎らしいくらいに温かい
君の腕を。

いとしいと勘違いしてしまうから

花びらは吹き上げられて。




世界が美しさに熟れてゆく、
あの街の終焉を
今でも僕は覚えている。


あの日僕の棘が見せた
君の血潮の色でさえ。



自由詩 野ばらの王国 Copyright 水島芳野 2009-04-01 19:27:20
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