恋詩木
木屋 亞万
恋歌に憧れていた僕は
物語に紛れ込みたかった
ある日、ふと気付く
僕は目になりたいのだ
彼らを眺め続ける透明な視点
春が来て
僕はあなたに恋をした
立っているだけで精一杯
好きだった、
じわりと
赤いインクが心を染め
呼吸がとても優しくなった
あなたを想う詩を作った
いくつも、いくつも
あなたに読まれるはずがないのに
届くかもしれないという
希望を捨てられず
書き続けた
あなたは僕と知り合う前に
目の前からいなくなってしまった
僕はただの透明な木だった
これはあなたの詩です
誰が何と言おうとあなたの詩
あなたは僕を知らないし、
僕の気持ちに気付くはずがない
でもこれはあなたのための詩
あなたが過ごしたこの場所に
僕もいる、それだけで
生きていくには充分なんです
どれだけの時を経ても
僕は立っているだけで手一杯
愛し愛されることが
この世の最大の幸福だと
誰が歌おうとも
僕はあなたを想うだけで幸せ
あなたがこの世にいるだけで
僕は優しい呼吸ができるのです
さよなら
ありがとう
これはあなたの詩