サピア氏とウォーフ氏との(間で)立ちすくむ
N.K.

サピア氏とウォーフ氏の眼前で
サピア氏とウォーフ氏が見ている世界と
私の見ている世界は異なる。

サピア氏とウォーフ氏の眼前で
例えば「ザラメ雪」を
常夏の異国の言葉へと訳そうとしているかのようだ。
間の(空白)は埋まることはない。

私にできることは
気になる言葉が出てきたらそれを
(    )でくくること。

いや そもそも (空白)の意味するところは
(彼ら)の言葉と私たちの言葉でさえ
それぞれ異なったゲームとそのピースで
それぞれ違った(世界)の反映に過ぎない
ということ。

いや そもそも 同じ国の言葉だって
(あなたたち)と私の言葉は
それぞれ異なったゲームとそのピースで
それぞれ違った(物語)に過ぎなかった
ということ。

お互い同じものを見ながら
別々の(出来事)を認め
お互い同じ空間に身を置きながら
別々の(論理)の中に暮らしている。

お互い同じ(場)にいながら
それぞれの(小さな物語)の中に暮らしながら
お互いの(物語)が(邂逅)することはなかった。
あえて言えば
お互いXがYすることがなかった。

私にできることはバケツで海の水をすべて
くみ出すようにして
XとYに(意味)を当てはめていくことのみ

そうすれば(行間)に
(私)は(巻き込まれる)ことなどないだろう。
願わくは私たちの(関係)も

しかしそもそも 
後付けでしかないことは重々分かっているのだが
サピア氏とウォーフ氏の下では
(二人称)は(一人称複数)にはなれなかった。
(すれ違い)は(出会う)ことがなかった。

サピア氏とウォーフ氏との間よりも
私と(現実)の(間)には冷たく(深淵)が
横たわっているのだった。

その(狂気)の淵で
(正気)でいるために
せいぜい私にできることは
言葉を(   )でくくることだけであった。


自由詩 サピア氏とウォーフ氏との(間で)立ちすくむ Copyright N.K. 2009-03-31 02:26:12
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