春の機械
木屋 亞万

年をまたいでこの冬はずっと鉄の仮面を被っていた
ネット通販を利用して、海外の鉄の街から送ってもらったものだ
ちょっとした防寒具にもなるし、ヘルメット代わりにもなった
けれど街で知り合いにあっても気付いてもらえず、
その狂人的な風貌のせいで知り合いの数自体も減ってしまった
(狂人ファッションという流行を知らない人も多い)

最近は腰に差している刀を見ても、誰も怯えなくなったので
(刀は差し始めて半年といったところだ)
そのうち鉄の仮面にもみんな慣れてくれるだろうという希望を持っている


昨年から愛読している季刊誌『機械』の春号が一昨日ついに届いた
付録についてきたテントウムシのマグネットを鉄仮面に貼り付けながら
今度は何を買おうかと、次から次へとイメージを膨らませている

この春は近未来的な自転車を買おうかと思っている
十輪車という新製品の自転車で、その名の通り
ごちゃごちゃと十個の車輪がついた自転車なのだ
ボウリングのピンのような配列のピラミッド型と
ムカデのように二輪ずつ連結しているハシゴ型のどちらを買おうか
ここ最近はずっと悩んでいるのだ


          *イメージする

鉄の仮面に12ポンドと落書きをして
ボウリング型の自転車にまたがる自分を
(イメージする)

春の河原を立ち漕ぎで快走している
機械化した馬車のように整列した十輪が目の前で回っている
菜の花畑を通り過ぎ、桜のアーチをくぐりぬけ
海の見えるところまで走り抜けたら
自転車を飛び降り、刀を抜く
掘りたての新ジャガイモでお手玉をしながら
それを一個ずつ刀に突き刺していき、フィナーレ
(海の波が防波堤にザザーンってなるの)
鉄仮面に油性ペンでヒゲを書き、例のダンスを披露するのだ

このデートプランなら、どんな女もイチコロだ、というイメージ


          *イメージする

鉄の仮面に夜道でも光る触覚をつけて
ムカデ型の自転車にまたがる自分を
(イメージする)

うつ伏せのままバンザイの姿勢で長い自転車の胴体に寝転ぶ
身体を左右にクネクネ動かすと驚くべきスピードで車輪は進み始める
(それはとてつもなく遅いのだ)
(刀は邪魔になるので忍者のように背中に差す)
そしてひたすらクネクネ、
左折時は右側に多く身体を残すようにクネネー、右折時は左にクネネー
(この感覚がなかなか癖になるのだそうだ)
自転車は静かに山を登っていく、それは男のロマン
自然に帰る、大地を肌で感じるというのはまさにこういうことなのだ

山の頂に立つ男の背中は、さぞかしカッコいいことだろう、というイメージ


悩んだ末、どちらも買ってしまおうと決めた
わたしは早速インターネットで自転車の街を検索し
ネット販売も行っている自転車専門店のサイトを探す
そしてすぐさま購入ボタンをクリック、クリック
(クネネーの動きを練習しとかないと、ね)


自由詩 春の機械 Copyright 木屋 亞万 2009-03-30 01:38:19
notebook Home