糸の記憶
あ。
絹糸をよせあい
指の間にからませてみる
しゃらら しゃららと柔らかく
それはとてもしなやかで
最後に泣いた日を思い出した
寒天のように細かくふるえ
すぐに崩れ落ちそうになるこころを
白い布で覆っていた
しっかりと編まれた布はとても強く
全てをすっぽりと包み込み
涙の落ちるすきまもない
手を太陽にかかげれば
糸は再びしゃららと光り
ほんの少しの風に揺れる
ずっと昔のあの日
こんなお天気の下で
ぽとぽととなみだを落としながら
小さな声で歌っていた
誰にも聞こえない声で
誰も知らない歌を歌っていた
こんなこと
神様だって知りはしない
きっと今なら
布を取り去る勇気があるだろう
むき出しのままで生きるちからを