糸の記憶
あ。

絹糸をよせあい
指の間にからませてみる
しゃらら しゃららと柔らかく
それはとてもしなやかで
最後に泣いた日を思い出した


寒天のように細かくふるえ
すぐに崩れ落ちそうになるこころを
白い布で覆っていた


しっかりと編まれた布はとても強く
全てをすっぽりと包み込み
涙の落ちるすきまもない


手を太陽にかかげれば
糸は再びしゃららと光り
ほんの少しの風に揺れる


ずっと昔のあの日
こんなお天気の下で
ぽとぽととなみだを落としながら
小さな声で歌っていた
誰にも聞こえない声で
誰も知らない歌を歌っていた


こんなこと
神様だって知りはしない


きっと今なら
布を取り去る勇気があるだろう
むき出しのままで生きるちからを


自由詩 糸の記憶 Copyright あ。 2009-03-28 22:36:55
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