ひとつ さまよい
木立 悟






ひとり ひとり
夜の裸眼史
硝子のむこうの硝子と星


騒がしい影
何もない肌
土に映る
腕のかたち


闇に冷やした
ひとつの果物
指なぞる文字
雪を招ぶ文字


まるい機械
軋らぬ機械が
世界の片方にふくらみはじめる


ある日どこかに隠された火を
見出せずさまようもののため
冬と冬のはざまの子
見えない棘のしずくを抱く


空から
海から
地の水から来る
道つなぐ指の軌跡を見る


痛みとともに左は引かれ
異なる速さの銀の粒を見る
音の無い機械の動く音
雪の空へ昇りつづける


まるを抱く色
抱くかたち
にじみあふれ刺さる声
刺さるままに聴いている


雷光が来て
日記を燃やす
閉じながらひらき
壊れることさえいとわずに
卵は卵のはばたきを止めない


くちあたりのよい童話を燃す火が
ひときわ高く夜を照らし
重い背のままさまよう影を
それぞれの地へ導いてゆく



















自由詩 ひとつ さまよい Copyright 木立 悟 2009-03-28 21:51:58
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