「 うろこのこころ。 」
PULL.
もう鰓呼吸の仕方も忘れちゃったねと夫は肺で煙草を吸うので。
なまぐさいのはなつかしい手紙なくしてしまった鱗が痛くて。
昼は泣きながら鰯を焼いて食べたなつかしい鱗の味がした。
水族館でよく眼が合うあなたの鰓におもいで疼き。
水槽越しに見つめ合って魚だったころのあたし水葬する。
なまぐさい臭いの男の後をつけまたシーツの浜に打ち上がり。
水性インクで書かれた手紙は海に身投げして記憶をなくし。
気持ちを綴るのは苦いただ染みをつくるだけならいいのに。
あなたにとっては汚れた手紙わたしにとっては指を汚した紙。
指が勝手に書いたことばのことなどどこのあたまが知るのでしょう。
指を怪我してしまいましたまた指を穢して書いてしまいました。
鰯を囓るとあなたのことばの味がしただから魚には弱い。
彗星インクで書かれた手紙はしっぽであなたの願いを空に、
息苦しそうに紙の上はねることばたちに指先でとどめ刺し。
疼く首筋に鰓はなく魚であったおもいでだけが息をする。
了。