月花のためのチェロ独奏曲
瀬崎 虎彦

捩じった螺旋の肉体
白々と夜薔薇を広げ

遠方より 船が近づいてくる

颯爽とベッドから抜け出して、
夜中の台所に立つ
喉を鳴らして水を飲む
女(金属的な恥毛 踝の中の胡桃)

ああ この肉体では軽すぎる
息を殺し爪先立って歩く
ベリリウムよりも比重の軽い肉

英国の雨の多い田園風景の中に
スコーンとティーポットが
白く際立って見える

水の匂いが 幻惑された時計の文字盤に反射している

岬から灯台は光を船に撃ちこむ
壊れて吐き出される 堕胎された赤子の船に

雨を含んだ風がガラスに爪を立てる


自由詩 月花のためのチェロ独奏曲 Copyright 瀬崎 虎彦 2009-03-26 22:33:29
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