月花のためのチェロ独奏曲
瀬崎 虎彦
捩じった螺旋の肉体
白々と夜薔薇を広げ
遠方より 船が近づいてくる
颯爽とベッドから抜け出して、
夜中の台所に立つ
喉を鳴らして水を飲む
女(金属的な恥毛 踝の中の胡桃)
ああ この肉体では軽すぎる
息を殺し爪先立って歩く
ベリリウムよりも比重の軽い肉
英国の雨の多い田園風景の中に
スコーンとティーポットが
白く際立って見える
水の匂いが 幻惑された時計の文字盤に反射している
岬から灯台は光を船に撃ちこむ
壊れて吐き出される 堕胎された赤子の船に
雨を含んだ風がガラスに爪を立てる