傍観者
ぽげ

サイレントマジョリティーという言葉があるのだが、意味は良くわからない。

サバルタンの反対のようなものだろうか。

ともかく、多くの沈黙する人たちのことを考える。

そこいらで紛争がおきようがエイズが蔓延しようが、新型インフルエンザで国民の三分の二が死んでしまう可能性があろうが、地雷で足を吹き飛ばされる子供たちがいようが、全力で見て見ぬふりが出来る人たち。

 

俺は素で思うのだが、彼らのことを「強いな」と感じてしまう。

俺は繊細(笑)なので、一度目に入ったら気になって気になって仕方がない。

もちろん俺が気にしたところで、俺は政治家でも富豪でもないので何も出来ることはない。

せいぜい赤い羽根募金に500円玉突っ込んで羽はそこいらに捨てるというよくわからない偽善的行為をするぐらいだ。

 

俺は100円ショップでものを買うときにも、工場で非人間的な生産過程に組み込まれて低賃金で働く人々のことを思わずにはいられない。

俺は賞味期限切れ近い惣菜パンを半値で買うとき、パン工場で何の希望もなく延々とライン作業をする人々のことを思わずにはいられない。

深夜の道路工事、真夏もしくは真冬の旗振り、金属加工工場で両指をすべて切断された古い友人etc.

 

彼らのことは俺にとっては他人事ではない。

プラスチック工場の夜勤で頭がおかしくなりそうになり、脳内で壮大な物語を構築し、そのすばらしさに涙を流しながらバリ取りをしていたのが俺なのだ。

パン工場で働くとき事前説明会で「たまに指ちょん切られる人がいるから気をつけてね(笑)」と説明責任者に言われ唖然とし、実際にローラーに指を巻き込まれ指が引きちぎられそうになったのが俺なのだ。

ドカタのおっちゃんが砕石に飲み込まれて下半身不随になったり、弟の友人がユンボのキャタピラに踏み潰され、足から腰まで滅茶苦茶にされた、そんな話ばかり聞かされるのが俺なのだ。

 

スルー力。

そんな言葉を作り啓蒙しなくとも「まっとうな人々」は生き延びる作法として自然にそれを身につけている。






大いなる沈黙者たちよ。

滅びを見守る冷徹な眼よ。

 

俺は貴様らに宣戦布告をする。


散文(批評随筆小説等) 傍観者 Copyright ぽげ 2009-03-25 14:46:02
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